プレコ産卵形態について思うこと。



↑お馴染みのディスカス産卵筒です。縦に長いので産卵塔と書いたりもしますね。ディスカスはオープンスポウナーですので、この産卵筒の外側基質表面に卵を産み付けます。一方プレコはケーブスポウナーですので、筒の内側基質表面に産卵します。アルビノブッシープレコ(Bristlenose)はF1とF2ともに、このタイプのディスカス産卵筒で仔採りすることができました。その際、垂直面に産卵するにも関わらずHypancistrus属のプレコによく見られるような卵の蹴り出しはほとんどありませんでした。

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↑ワイルド インペリアルゼブラプレコ♂(自家繁殖経験あり)です。ディスカス産卵筒の入口がお気に入りのようで良くこの場所に陣取っています。ただし、このインペは2年半ほど飼育していますが、この産卵筒では一向に繁殖する気配が見受けられません。ちなみにこれの上部内側の太さはプレコ産卵筒よりも細くなっています。

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↑プレコ産卵筒(インペは同一♂個体)です。ディスカス用のそれとの大きな違いは水平に設置するところですね。このタイプの産卵筒を入れて半年以内にインペF1を採ることができました。このことから同じ小型種のプレコであっても、Ancistrus属(Bristlenose)のように垂直的な産卵形態も取ることが可能な種類と、Hypancistrus属のように水平的な産卵形態に依存する傾向が強い種類が存在しているのではないかと思っています。その要因ですが、口による体位保持力及び卵の基質接着依存性の違い(共にAncistrus属の方が強い)等にあるように感じています。あくまで推論ですが。。
にもかかわらず、分類階級上ではAncistrus属(Bristlenose)とHypancistrus属が同じAncistrinae亜科となっているのはなぜでしょうか。

Kathy Jinkings(2000)『Bristlenoses-Catfish with Character』t.f.h.に記載されている遺伝子配列解析に基づく系統樹(Phylogenetic tree based on analysis of gene sequence:Montoya-Burgos,Muller,Webster and Pawlowski 1977)によると、Ancistrus属(Bristlenose)→→Chaetostoma属(Bulldog plec)→→→Hemiancistrus属→Hypostomus属(Plec)→→Parancistrus属→Peckoltia属の順に、矢印が少ないほど近縁となっています。特に興味深いのは、DNAの塩基配列から類縁関係が近いとされるHemiancistrus属とHypostomus属(Plec)が、分類階級では別の亜科となっていることです。この逆もまた然りで、Ancistrus属(Bristlenose)とHemiancistrus属は同じ亜科ですが、遺伝子的な類縁関係からいえばむしろ離れています。

ここで遺伝子的な類縁関係が近いとされるAncistrus属(Bristlenose)とChaetostoma属(Bulldog plec)の2種の口の形を比較してみると、双方ともに苔をはむのに適した大きな形状となっており植物食性が強いことが伺えます。一方、同じAncistrinae亜科のHypancistrus属は口の形状はもちろんのこと食性も異なります(インペやインペリアルダップルドは水槽壁面の苔を好んでは食べませんよね)。

つまりHypancistrus属は、Ancistrus属(Bristlenose)とChaetostoma属(Bulldog plec)の2つと同じ亜科でありながら、遺伝子的な類縁関係では実は相対的に離れている可能性があるのではないかと思っています。残念ながら、上記論文の系統樹にHypancistrus属は含まれておりませんでした(インペに関しては発見されたのが1980年代後半ですから当たり前ですね)。

分類階級の体系は元来、分子生物学的手法(アミノ酸配列解析や塩基配列解析etc.)等を用いた系統的な分類に則ったものではなく、その多くが便宜的側面から人為的な(形態的な)分類の上に成り立っています。そのため人為分類と系統分類(自然分類)を比較すると差異が生じてくるのです。分類が”観察”という行為に端を発する以上、人為的側面から影響を受けることを免れません。かくいう私もディスカスやプレコを観察して色々と想いを巡らすことが大好きです。ですからそれらの点を踏まえて、分類体系は時に不完全で時代とともに変化していくものなのだという認識が大切なのだと思います。

下位の分類階級についても同様に、シングー川に生息する3種(上流域からインペ、インペリアルダップルド、キンペコ)は現在同じ属になっていますが、遺伝子的な類縁関係から見ればおのおの分岐した時期が異なるのではないかと想像しています。初めはおそらく同一であった種が生息域の違いによる地理的隔離の結果、生殖的隔離までは至っていないものの種分化が進みつつあると推測されるからです。言い換えれば、このことがこれら3種による種間交配の難易度や、その交配の結果得られるF1の生殖能力に影響を与える一因になっていると考えています。

2017年9月5日撮影

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